世のミュージシャン達はなぜミュージシャンになろうと思ったのか。周りの人にあまり聞いたことがないので分からないですけど、僕の場合はとても簡単。
ミュージシャンって楽そう
って思ったからです。
いやー、今から思えばほんとアホだよなーと思うんだけどね。
ミュージシャンが楽? はっはっは。
過去の自分にアホ言うなと言ってやりたいですよ。
音楽だけで食っていける人は一握りっていうか、一つまみくらいなもんで、そこに僕みたいな凡人が入り込むには体が変形するくらい無理やりに、ぐりぐりと押し入っていかなくちゃならんのです。
だからもしミュージシャンを志してる人がいたら、よくよーく考えたほうがいいよ。
まあこういう忠告って、言われて「はいそうですかじゃあやめときます」ってならないからあんま意味ないのは分かってるんだけどさ!
なぜ私はミュージシャンは楽などという誤った考えを抱いてしまったか
んで、なんでぼくがミュージシャンって楽そうだなって思ったかっていうと、大学の時にある温泉旅館に営業の仕事(要は余興として演奏しに行くこと)に行ったんですよ。
その旅館には大きいホールがあって、そこで月何回かのイベントとして生演奏会があったんですね。それに僕の知り合いのミュージシャンが呼ばれ、その人が「よう、ちょっくらやってみっか?」と声をかけてくれたわけです。
「やりますやりますやります」僕は三回くらい言いました。
そんなん面白そうだからやるに決まってますよ。
んで、バスに何時間か揺られて行って着いたのは、けっこういい感じの温泉旅館。
そんなに高級感あるわけでもなく、かといって安っぽさがあるわけでもないちょうどいい感じのところでした。
受付に我々がミュージシャンであることを申し出ると、係りの人に奥の方に案内され、支配人に引き合わされ、その支配人からおおまかな説明を受けた。
- 演奏時間以外は自由行動
- ご飯は好きなだけ食べていい
- 温泉にも好きなだけ使っていい
- ただし、「コンドルは飛んでいく」のカバーをやってほしい(支配人がこの曲が好きだから)
最後の「コンドルは飛んでいく」のところで、多少「?」となりましたが、あとは内心全てに喝さいを叫んでいました。
おいおい、そんな最高なことってあるのかよ。
僕たちの演奏を聴いたお年寄りたちは
僕たちはしばらく自分たちの部屋で休み(その部屋がまた良い部屋でした)、夕飯時にいざ本番へ。
まあ着いたときから予想はしていけど、お客さんの9.5割はお年寄りたちでした。
うさんくさそうな若者たちがなにやるんかいな
と我々を疑り深そうにじっと見る、お年寄りたち。
そんななか頑張って演奏する僕たち。ときどきMCなんかもいれてね。
するとしばらくたってくるうちに、心なしかお年寄りたちの表情がなんとも柔和なものになっていくではありませんか。
後半の方では寝はじめる人もいました(寝るってことは安心できる演奏ができてるってことだからいいんだよ、と支配人は言ってました)。
そして最後の曲
「コンドルは飛んでいく」です。
El Condor Pasa コンドルは飛んでいく ほか南米の音楽・フォルクローレ/quenas 1
まさしくこのキャプチャ画像の二人みたいに半信半疑な顔で演奏をしはじめた我々。
すると、なんと今まで寝ていたお年寄りが起き、周りの人たちも食い入るように演奏を聴き始めたではないか!
結果、お年寄りたちにいちばん受けたのは「コンドルは飛んでいく」でした。
「ね、言ったでしょ?」と支配人。さすがだなーと思いました。やっぱ事件は現場で起こっているんだーね。
上手い料理と極楽の湯
あとは、もう天国でした。夕飯を頂き、ビールを頂き、お風呂を頂き、風呂上がりのビールを頂き、寝心地のいい布団まで頂き、最高でしたね。
「先輩、最高ですね」僕は言いました。
「な、最高だよ」先輩は言いました。
「ミュージシャンっていいもんですね」僕は言いました。
先輩は寝てしまったのか何も言いませんでした。
思えば、そのときなぜ先輩から返事がなかったのかもっと考えるべきだった。
先輩は寝たのではなく、「沈黙という返答」を僕に与えていたのだ。。。。ちゃんと言葉にしてくれたらよかったのに。でもまあそんなこと言われても若い人間は聞きませんから、あえて何も言わなかったんでしょうね。
いまなら僕も先輩と同じ立場だったら同じことをするかもしれません。
帰り際のギャラ清算
んで、翌朝、その場で料理がつくられていくバイキング形式の豪華朝食を腹に詰められるだけ詰め込み、いざ出発となりました。
支配人がやってきて、お礼と封筒を渡してくれた。
「ありがとねー、うちはミュージシャンを応援してるからまた来てね」
とにっこり別れのあいさつをしてくれました。
気持ちのいい支配人だぜ!
帰りのバスの中で封筒を開けると、一人一万のギャラが入っていた。
僕は演奏でギャラをもらうなんて初めてだったんで、めっちゃうれしかったです。
しかもあれだけ温泉とご飯を満喫してこれだけくれるとは。。。。。
僕は窓の外で流れていく高速道路の景色を眺めました。
その時です。僕がミュージシャンになろうと思ったのは。
間違った判断の決定的瞬間ですね。あの瞬間のことはわりとよく覚えています。隣をミニ・クーパーが走っていました。
その時に俺はミュージシャンになるし、就活なんかやるものか、と決めました(なので一回も就職活動したことありません、ははは)。
はやまったことしたなーと思いますが、僕はもともと働きたくないなぁと高校生の時から思っていた人間ですから、そんな人間がそんなおいしい体験をすれば、そりゃそっちに転がっちゃいますよ。
まあ後悔はしていませんけどね。
お金がないだけです。笑
てなわけで以上が僕の「ミュージシャンになろうと思った理由」でした。